色彩とパターン、テクスチュアを自由に操り、唯一無二の織物を生み出すWALLACE SEWELL(ウォレス アンド スウェル)。前回の投稿では、彼女たちのものづくりが生まれた背景に迫りました。ここでは、近年大きな話題を呼んだバウハウスとのコラボレーションについてご紹介します。
活動の集大成「バウハウスコレクション」
WALLACE SEWELLはクライアントから依頼を受けて取り組む制作活動にも意欲的です。たとえば、ロンドン交通局やロンドン地下鉄の座席の張り地のデザインや、テートギャラリーの企画展に合わせて制作した特注ストール、アメリカのインテリアショップ「West elm」「Anthropologie」とのコラボレーションなど。多岐にわたる経験の中で得た知識と技術をクライアントワークへと還元しているのです。
写真左:ロンドン地下鉄のBakerloo lineの座席の張り地では、ロンドン・アイやセントポール大聖堂、ビッグベンなど、都市のランドマークを表現した〈1〉 写真右:2019年、テートモダンのパーマネントコレクションにインスパイアされたストール〈2〉
なかでも、バウハウス開校100周年を記念し、「Designshop Bauhaus Dessau」からオファーを受けて制作した「バウハウスコレクション」は、二人にとって最も印象的なプロジェクトだそう。実は、彼女たちのクリエイティブにおいて、大きな影響を受けているのがバウハウスです。
1919年から約14年間、ドイツで建築やアート、工芸、写真、デザインなど、総合的な芸術教育を行っていたバウハウス。その歴史は短いものの、モダンデザインの礎を築き、現在も世界中のデザインに多大な影響を及ぼしています。
当時、バウハウスが打ち出したのが、幾何学的な形状や明確なライン、実験的ともいえる大胆な色使いなど、革新的で、機能的かつ合理的なデザイン。そう、それはまさにWALLACE SEWELLが追求するデザインなのです。
「バウハウスコレクション」のもととなっているのは、バウハウスの織物工房を率いた女性初のマイスターとして知られる織物師、Gunta Stölzl(グンタ・シュツルテル)が1926年に手がけたブランケット。デッサウ校の学生寮「プレラーハウス」のためにデザインされたもので、その名にちなんで“プレラーブランケット”と呼ばれていました。そのクラシカルな趣をもつ色合いとグラフィカルなパターンは、バウハウスを象徴するデザインとして知られています。
当時、織物工房の学生によって100枚ほど手織りされましたが、現在はすべて消失。「Designshop Bauhaus Dessau」が、100周年を記念してプレラーブランケットを再現しようとしていたところ、卓越した色彩感覚、織りに関する深い知識をもつWALLACE SEWELLに白羽の矢が立ったのです。
彼女らは、Guntaのお嬢さんのMonica Stadler(モニカ・シュタットラー)さんと共に、アーカイブの図面や写真をもとに再現に当たりました。そうして約5年の歳月を経て、「バウハウスコレクション」が完成したのです。
二人の感性が光る色彩
「ブラウン」はオリジナルの色を再現したものですが、「シュテルツル シールブルー」「シュテルツル オーチャードグリーン」は、Guntaの作品によく用いられていた色を抽出したもの。
素材は当時、最先端だったレーヨンで作られていましたが、WALLACE SEWELLが手がけた復刻版ではラムウールを採用。やわらかくて軽く、温かい上、サスティナブルな素材でもあるからです。Guntaのクリエイティブに敬意を払いながらも、WALLACE SEWELLのエッセンスを少しだけ加え、現代のライフスタイルにフィットするプロダクトが生まれているのです。
STAMPSでは、ブランケットやクッションを展開する「バウハウスコレクション」のほか、WALLACE SEWELLオリジナルのスカーフやブランケットをラインナップ。ダークな色合いが増えがちな冬の装いにこそ加えていただきたいアイテムです。
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矢郷 桃(TOP,8,10)
- TEXT:
- 古山京子(HELLO, FINE DAY!)