「STAMP AND DIARY」の服づくりは、形からでなく、素材選びからスタートします。日常着としての着心地のよさにとことんこだわりたいため、私たちが本当にいいと思った生地だけを厳選。なかでも毎シーズン、チャレンジしているのがオリジナル生地です。業界でも、一からオリジナルで生地を製作するブランドは限られています。なぜなら、コストがかかるから。それでも「STAMP AND DIARY」が素材にこだわるのには理由があります。
ヨーロッパの上質な生地づくりに触れて
ご存知のとおり、洋服の歴史はヨーロッパからはじまったもの。それぞれに独自の服飾文化を形成してきたイギリス、フランス、イタリア……。
ディレクターの吉川はこれまで、各国を代表する数々のファッションブランドの洋服づくりに触れ、日本にはあまりないような上質な生地に出会うことができました。
「なかでも心に残っているのが、イギリスのライフスタイルブランド「CABBAGES & ROSES」との仕事です」(吉川)。
「CABBAGES & ROSES」はイギリスのカントリースタイルをモダンに解釈した軽やかなデザインが特徴。創始者でクリエイティブディレクターのクリスティ―ナ・ストラットのデザイン哲学に触れたり、実際に工場で製作の現場を見せてもらったりする中で、生地のおもしろさと奥深さを学んだといいます。
「とくに、リネンにハンドプリントで幾重にも色を重ねた、アンティークのような趣をもつ生地には感激しました」(吉川)。
本国では主にインテリアファブリックとして展開されていましたが、日本ではファッションアイテムとして提案したところ、思惑どおり、大きな反響を得ることができました。同時に、“生地”に価値を見出す人が多くいることを実感した経験でもあったそうです。
上質なリネンにハンドプリントで花のパターンを施したテーブルクロスはもちろん「CABBAGES & ROSES」。単色に見えるが、実は幾重にも色を重ねて奥行きのある表情を出している
メイドインジャパンの布帛生地
「STAMP AND DIARY」のオリジナルの布帛は、日本で作っています。
「きっかけは、クリスティ―ナに『日本にはいい生地があるのに、なぜ使わないの?』」と言われたことです。自分の国の資産でもある技術に目を向けていなかったことに気付かされて。自分が体験した“いい生地に触れたときの喜び”を伝えていきたいと強く思い、ファーストコレクションからオリジナル生地を作ることにしたんです」(吉川)。
当時、麻という素材にフォーカスしたブランドは少なく、リネンといえばナチュラルな色みの粗野な雰囲気のものがほとんど。「STAMP AND DIARY」では、ヨーロッパで使われるようなニュアンスのあるグレーや、濃紺をベースに、理想の幅で作ってもらったチェック柄など、どれもありそうでない、ヴィンテージ感のある大人の女性に映える色と柄を追求。何度も何度も色のチェックをして、端にはデニムのように赤耳をつけてもらったりと、とことんこだわりました。結果的に、18,000円の価格で提供した上質な麻のワンピースは、本当にたくさんのオーダーをいただきました。
バイヤーさんに「この価格で生地づくりからやっているブランドはなかなかない」と言っていただけたり、「STAMP AND DIARY」の洋服を、自社のアパレルブランドと一緒に並べてくれるお店があったりすると、洋服のプロに認められているのだ、とうれしく感じます。
写真上:ブランド立ち上げから作るオリジナルのリネン。毛足の長い麻を用い、一般的なリネン地の約1.5倍の糸を打ち込むことで、なめらかな質感に仕上げている〈2〉 写真下:このシリーズには「FINE JAPANESE EXCLUSIVE LINEN」のタグが付けられる〈3〉
素材で“定番品”の厚みを増していく
素材にこだわるもうひとつの理由。それは「STAMP AND DIARY」の服に定番品が多いこと。お客様からのリクエストが続くからおのずと“定番”になっているのですが、その時の気分で裾や袖の丈を変えることはあっても、大きく形を変えることはありません。その代わり、シーズンごとに素材で変化をもたせています。だからこそ素材にはこだわりたいし、素材で表現したい。フィンランドの家具メーカー、アルテックの名作「STOOL 60」が少しずつ変化して、プロダクトとして厚みを増していくような空気感が出せたらいいなと思っています。
「STAMP AND DIARY」の生地は、信頼するパートナーである生地屋さんと一緒に開発しています。いい生地を作ろうとすると、その原料となる糸まで追求することになりますが、その方は国内外にある糸という糸を見ているスペシャリスト。街で見かけた人の服を見て、遠目でも生地の品番を言い当てるくらい、生地に関する経験と知識をもっています。
まずは、「STAMP AND DIARY」としてそのシーズンにやりたいイメージを伝えて、各産地から材料を集めてもらい、それらの素材が引き立つデザインを、デザイナーと共に詰めていくというプロセスで製作しています。この手法は少し特殊かもしれませんが、ブランドの立ち上げからずっとこのチームで、このやり方で取り組んでいます。おかげさまで、作り続けられる定番品も増えてきました。吉川が前職で「しっかりとものづくりをすれば、多くを語らなくてもそれが伝わる」と感じた経験は、「STAMP AND DIARY」に生かされています。
- PHOTO:
- 三浦伸一(1,2,3)
矢郷桃(4,5,6)
- TEXT:
- 古山京子(HELLO, FINE DAY!)