Travelogue

STAMPSの旅の記録

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STAMPSが旅をする理由

きっかけは「本当に幸せな暮らしってなんだろう?」という問いかけ。
代表でディレクターの吉川が、STAMPSを立ち上げたきっかけと思いを綴ります。

「STAMPS」の名前は、出入国の際にパスポートに押される証印「STAMP」に由来し、”旅”を表しています。僕が国内外を飛びまわっていた会社員時代、自分を見つめ直すきっかけになったのが「旅」。「旅」は新しいスタートであり、出発です。

そしてまた「旅」にはゴールがあり、帰る場所を思わせるものでもあります。なにげない「日常」を大切に過ごしながらも、「旅」をする気持ちをいつまでも持ち続けたい。そんな思いから名付けました。

2013年、僕はSTAMPSとして旅に出ることに決めました。これまでを振り返って、旅に出た理由、その時の思いを綴ります。

本当に幸せな暮らしってなんだろう

「STAMP AND DIARY」は、洋服を「暮らしの道具」と表現しています。背景には、服はあくまで暮らしをかたちづくるものの一部である、という考えがあります。

僕が暮らしに関心をもったのは小学生のころ。テレビ番組「兼高かおる世界の旅」がきっかけです。当時、日本は高度経済成長期のまっただなかで暮らしは二の次三の次。「暮らしを大切にする文化がある欧米は、なんて進んでいるんだろう」と引き込まれました。そして大学3年生の時、ロンドンに暮らす親戚のもとに2カ月間滞在。イギリス文化の奥深さに魅了され、帰国する飛行機の中で「仕事でまたここへ来る」と誓いました。

そして卒業後、アパレル業界に身を置き、その思いがかないました。アパレル業界で主にたずさわったのは、マーケティングと店舗開発。フランス、イギリス、イタリアなど海外を渡り歩き、持ち帰ったアイデアをもとに新業態を作ったり、日本未上陸だった海外ブランドを一から日本で展開するなど、アパレル業界の川中から川下までを経験しました。

しかし、会社員として活動していると「自分ならこうするな」と思う場面が増えてくるように。そして親が他界し“一度きりしかない人生”を目の当たりにしたことがきっかけとなって、自分でブランドを立ち上げたいという思いが芽生えました。そんなとき『世界中で、幸せに暮らしているところってどこなんだろう?』という問いから、ブランドを作るイメージがわいてきたのです。

注目したのは、「北欧」の暮らし。ヨーロッパは定期的に訪れていたものの、北欧は僕にとって未開の地。当時、今ほど注目されておらず、情報が少なかった北欧。実際に自分の目で見てみようと思い立ちました。そこでは、出会うものすべてに驚かされました。なかでもフィンランドを代表する家具メーカー、アルテックのものづくりには、大きな衝撃を受けました。

写真上:フィンランドの食器メーカー、イッタラの「ティーマ」はカイ・フランクによるデザイン。同国の食器メーカー、アラビアで1953年に発表された「キルタ」が原型〈1〉 写真下:同国の家具メーカー、アルテックのアルヴァ・アアルトによるこの家具は1935年に誕生。今もなお愛される名作だ。共にSTAMPSのアトリエで使っているもの〈2〉

『地産地消』という言葉もなく、材料をどこからかもってきて加工するのがかっこいいといわれる時代に、白樺という自分たちの資産とデザインの力で世界に認められている。コマーシャリズムの強いパリやロンドンにはない、質素ななかにあるキラッと光るものを感じて。きっと特殊な地域や気候であったり、貧しいことを逆手にとったものなんだ、お金をかければいいわけじゃないんだって、ショックを受けました。同時に、これからはこうなっていくのが正しいんじゃないか、そして、今の日本にないなら、自分がやるべきなのではないかという思いがふくらんでいったのです。

アパレルの既成概念を壊したい

アルヴァ・アアルトやカイ・フランクのデザインのように、何十年経っても廃れずに、ずっと作られ続ける。何十年も暮らしの中で活躍し、暮らしを豊かにする。そんな服づくりができないだろうか−−。

そんな思いをかたちにしたのが「STAMP AND DIARY」です。「STAMP AND DIARY」は、「暮らしの道具」としての「女性のスタンダード」な服を提案。飽きのこないベーシックなデザイン、リラックス感のあるシルエットと、日常着としての着やすさに、とことんこだわっています。

なかでも大事にしているのが素材。当然、いい素材は値が張ります。でも「本当にいいものを手ごろに」というのも、大切なコンセプトのひとつとしたかったので、極力価格を抑えようと努めました。

作る側、消費者、サプライヤーのみんなが幸せにならないとビジネスは成立しません。だったら、自分の利益を優先するのではなく、利益をみんなに分配しようと考えました。なにより僕自身、“お得感があるもの”が好き。最低限、自分の家族が食べられればいいと思って上代を設定したものの、関係者には反対されるし、知人には『上代のつけ方知ってる?』なんて揶揄されました。でも、売れずにセールになったり破棄されるよりはずっといい。

写真左上:「STAMP AND DIARY」を立ち上げた2013年から作り続けている「2wayカーディガン」〈3〉 写真右上:スーピマコットンを高密度で織り上げた上質なタックパンツは、2014年から展開する定番〈4〉 写真下:こちらも定番の「刺繍のシャツ」。北陸の刺繍工場と共に作っている〈5〉

短いサイクルで、単価を抑えるために大量に作り、消費とのバランスがとれなくなり、在庫が膨らみ続けているといわれる日本のファッション業界。日本はマーケットが小さく、常に変化させて鮮度を保つ必要があるのが現状です。対して世界のマーケットは、同じことをくり返しても回っている。例えば家具の業界を見てみると、定番のアイテムがあって、つくり手が必要と考える最低限のアイテムを追加していく。そんなゆっくりとしたサイクルのほうが、僕には豊かに見えます。

業界の人に怒られてしまいそうだけど、実は洋服ってそんなにいらないんだよって言いたいのかもしれません。そういう意味では、「STAMP AND DIARY」は、今のファッション業界の中では異端な存在のような気がしています。

「STAMP AND DIARY」の「暮らしの道具」は、百貨店のリビングフロアやインテリアショップ、生活雑貨店に並べられることが多いのも特徴です。洋服のブランドとしては少し変わった立ち位置かもしれませんが、暮らしに関心の高い人たちのもとに届いているのがうれしいですね。

僕たちが“世界でいちばん幸せ”をずっと見続けているように、きっと誰もが“幸せ”を求めていると思うんです。STAMPSはそれをアパレルで表現したい。本当に幸せな暮らしってなんだろう–– その答えを探すSTAMPSの旅は、これからも続いていきます。

吉川修一 / STAMPSディレクター
1965年東京生まれ。茨城育ち。大学卒業後、数社のアパレル企業で営業、マーケティングと店舗開発に携わる。国内外のファッションとものづくりに触れた経験から2013年STAMPSを設立。オリジナルブランドの制作ディレクションからインポートブランドのセレクトまで手掛ける。

PHOTO:
山本あゆみ(1)
矢郷桃(2,3,4,5)
三浦伸一(ポートレート)
TEXT:
古山京子(HELLO, FINE DAY!)

Travelogue CHAPTER01_STAMPS

STAMPSが旅をする理由