STAMPSでは、2020年秋冬から、イギリスのデザインスタジオ、WALLACE SEWELL(ウォレス アンド スウェル)の取り扱いがスタートしました。
WALLACE SEWELLは「織物」だけを手がける、世界でもめずらしいデザインスタジオ。数えきれないほどの色とパターンを複雑に重ねたテキスタイルは、まるでアートのような存在感を放ちながらも、私たちの日常にしっくりと馴染みます。
写真左:バッグに入れておけるコンパクトなウールのストール。左から<MONO NIGHT>、<KLEE/LG/BLU>、<CULTURE BLUE> 〈1〉 写真右:グレーをベースに、オレンジやブルーのラインが入ったデザインのショール<CLOUDY LONDON>。幅60cmと大判なので、羽織っても、ひざ掛けとしても◎〈2〉
たとえば、ウールブランケット<PORTLAND>をよく見てみると、ストライプやヘリンボーン、ブロックチェック……と、実に多様なパターンがつなぎ合わせられているのが分かります。色使いも多彩。時にはあっと驚くような色合わせも、彼女たちの手にかかれば見事に溶け合うのです。今回は、WALLACE SEWELLの唯一無二のものづくりに触れる旅に、皆さんをお連れしたいと思います。
絵画を描くように、経糸と緯糸を編む
WALLACE SEWELLは、Harriet Wallace-Jones(ハリエット・ウォレス)とEmma Sewell(エマ・スウェル)の二人によるデザインスタジオ。アトリエがあるのは、ロンドンとドーセットの2箇所。ロンドンのアトリエにはショップが併設されていて、ショールやスカーフなどのファッション小物や、クッションやブランケットといったインテリアアイテムがずらりと並んでいます。
彼女たちの出会いは、ロンドンにある名門芸術大学、ロイヤルカレッジオブアート。数多くの著名なクリエイターを輩出するこの大学でアートを学んだ二人。彼女たちの関心は、織物へと向かいます。絵画を描くように模様や構図を創作でき、絵の具の代わりに糸や繊維を用いて色を混ぜ合わせ、風合いやテクスチュアをコントロールしていく織物。その面白さに引き込まれていったのだとか。
1990年の卒業後、二人は展示会で初めてコレクションを発表。当初、個人のお客様だけに販売しようと考えていたところ、バーニーズ・ニューヨークをはじめとするたくさんのバイヤーから注目を浴びて、取引を開始します。以来、バーニーズ・ニューヨークとは30年以上にわたり取引が続いているほか、現在では、25カ国に400ものストッキストをもつデザインスタジオへと成長しました。
こちらの動画では、WALLACE SEWELLの真摯でクリエイティブなものづくりにふれることができます。ぜひご覧ください。
アナログとデジタルを横断するデザイン手法
WALLACE SEWELLのデザインアプローチは、非常に独特です。最初に考えるのは色合いとそのバランスで、彼女たちが出合うさまざまな絵がインスピレーションのもととなっています。
まず、絵の中にある色を分析しながら、台紙に糸を巻き、デザインを考えていきます。この時に大切にしているのは、細やかで美しいだけでなく、工業製品として生産できるかどうか、そして、誰かに必要とされるプロダクトになりえるかどうか。その背景には、ただ目を引くような芸術作品ではなく、あくまで暮らしに馴染み、長く使えるものを作りたいという思いがあります。
WALLACE SEWELLのテキスタイルは、複雑なパターンと色合わせが特徴。織機で織り上げるには、綿密な数値の設定が必要となる〈4、5〉
次に、手織りの織機でサンプルを作り、工場で織ってもらうための仕様書を製作します。この仕様書では、一本一本の糸の組み合わせを数値で表します。複雑な織りをかたちにするためには、数学的で複雑な思考が必要です。壁にぶつかることもありますが、それに取り組み、乗り越えていくのも彼女らにとって楽しみの一つ。また、この仕様書を読み解くには高度な技術を要するため、イングランド北西部のランカシャーにある、100年以上の歴史がある老舗の織り工場と共に生産しています。
このように、WALLACE SEWELLのテキスタイルは、アナログとデジタルを行き来することで生まれます。次回は、彼女たちの真摯なものづくりへの姿勢がわかる、バウハウスとのコラボレーションについてご紹介します。
- PHOTO:
- 矢郷 桃(TOP,1,2)
三浦伸一(3〜5)
- TEXT:
- 古山京子(HELLO, FINE DAY!)