Travelogue

STAMPSの旅の記録

| 旅する人々 |

伊藤まさこさん〈前編〉

一年中、日本各地と海外を飛び回る伊藤まさこさん。
その理由とは? そして、伊藤さんにとっての“旅”とは?

「STAMPS」の名前は、出入国の際にパスポートに押されるスタンプに由来していて、“旅”を表しています。ディレクターの吉川は旅が好きで、これまでさまざまな場所を訪れてきました。「大好きな“旅”の話を、大好きな人とできたら楽しいだろうな」。吉川のそんな思いから、対談を始めることにしました。

第1回は、吉川のご近所さんであり、いつかゆっくりお話をしてみたかった、スタイリストの伊藤まさこさん。

伊藤さんのお宅に伺って、「この間、一眼レフで撮っていたのが出てきたんです」という旅のアルバムを見せていただくところから、話が始まりました。

伊藤 これ、20代前半にパリに行ったときのアルバムだから、25年ぐらい前のかな。このころは料理のスタイリングの仕事を中心に仕事をしていたのですが、毎日忙しくて。だから、一年最後のご褒美として、3月まるまる1カ月間ぐらい旅に出ていたんです。 写真を撮って、レイアウトしながら貼って。今、見るとマメだなぁと思います。

文具店で購入したファイルに自分で黒い台紙を入れ、写真やチケットなどを貼って作ったアルバム。「今、手元に残っているアルバムは、これを含めて3冊ぐらい。写真も今は携帯で撮るので十分だと思っているし、撮ってもプリントせず、そのままパソコンに保存しておくだけ。だからこれはとても貴重な一冊」

吉川 カフェの砂糖の包み紙やメトロのチケットも。ご著書(「ボンジュール!パリのまち」 集英社刊)を拝見していたからか、伊藤さんといえばパリ、という印象があります。

伊藤 充電も兼ねてパリにはよく行っていました。ときおり遠出も。思い出深いのは、車を運転してブルゴーニュを回った「三つ星レストラン美食の旅」。今考えると、本当に自由でしたね。あまり旅に出ないという今の20代に比べたらかなりの行動力。

吉川 たしかに。すごいです(笑) 

伊藤 市場で拾った、チコリを包んでいたと思われる紙も大事に持って帰ったり。当時は見るものすべてが新鮮だったんです。

–––国内外、いろいろな場所に行かれたと思うのですが、行き先はどうやって決めているのですか?

伊藤 私はだいたい食が中心。「どこそこのこれが食べたい」というので決めることが多いです。日程が決まると、昼、夜とレストランを予約して。

吉川 先ほどのお話のブルゴーニュもそうやって決めたんですか。 

伊藤 そうです。友達と「レストラン巡りの旅をしよう」と決めて。当時は免許とりたて。日本で2回ぐらいしか運転していなかったんですけど、田舎だし、大丈夫だろうって(笑)

一昨年の初冬、娘さんとパリを旅したときの風景。「借りたアパートは、カフェ・レ・ドゥ・マゴまで歩いて1分の最高の立地でした」。左はサン・ジェルマン・デ・プレ教会

吉川 素晴らしい(笑)。そのころは、まだインターネットもないですよね。

伊藤 そう、お店はミシュランガイドで探して、予約はファックスで。そう考えると、今は便利になりましたよね。 

吉川 ミシュランガイドは英語版ですか?

伊藤 フランス語版です。あと、日本でよく通っていたフランス料理店のシェフたちにフランスのおすすめの店を教えてもらったりして。

–––これまでの旅で食べたもので、一番印象に残っているのは何ですか?

伊藤 「一番」と絞るのはなかなか悩ましいですね。フランス料理もいいけれど、台湾の市場で食べる麺もいい。ハワイのちょっとジャンクなフードも好きだし。でもやっぱりフランスかなぁ?食いしん坊具合が似ているような気がして。あの人たち、話し出すと止まらない。例えば、エスカルゴはぶどうの葉が好物なので、ぶどうの産地はエスカルゴの料理がおいしいらしいんです。ボルドーの人に聞くと「ボルドーのエスカルゴが一番おいしい」って。ブルゴーニュの人は……

吉川 「ブルゴーニュのエスカルゴが一番おいしい」、ですか?

伊藤 そうそう。なるほどなと思いました。あと、フランスは郷土料理に特色があるから、土地土地にエスカルゴの器やテリーヌ型など、料理に合った器や道具があるのも興味深い。

吉川 パリではボン・マルシェ(パリの老舗百貨店「ル・ボン・マルシェ」)の近くのホテルを拠点にされるんですよね。

左:マルモッタン美術館に向かう途中の公園で。「落ち葉を踏む時のかさこそした音や、そのときの空気ごと旅の思い出に」 右:サービスをするオーナーもソムリエも、80代(!)という老舗のビストロ。「あまりにおなかがいっぱいで、デザートをパスして食後酒にいった私の横で、チョコレートムースや焼き菓子を何種類も取り分けてもらって、ぺろりと平らげていた娘。年の差を感じた旅でもありました」

伊藤 そうです、いつもあの辺りに。一昨年、娘と久しぶりのパリ旅をしました。カフェ・ド・フロールやカフェ・レ・ドゥ・マゴまで歩いてすぐのところに泊まって、ふたりで近くをブラブラしていました。途中で娘がパリの友だちと「ロンドンに行ってくる」と言って2泊ぐらいいなかったので、ひとりで美術館に行ったり、私は私でパリの友人と食事に出かけたり。

吉川 ボン・マルシェは百貨店なのに、美術館みたいじゃないですか? 僕の世界一好きな百貨店なんです。

伊藤 楽しいですよねー。私は食品館の一階がすごく好きです。きれいだし、ときめきますよね。

吉川 僕もあそこでお昼を食べたことがありますが、大人の食のテーマパークみたいな雰囲気がありますね。ホテルはどうやって選ぶんですか?

伊藤 キッチンつきのホテルを借りることが多いです。夜は友達と待ち合わせてしっかり食べることが多いから、お昼は胃を休めたくなって。野菜をゆでたり、近くのシャルキュトリーでおいしいお惣菜を買って軽くすませたり。

吉川 蚤の市にも行かれますか?

伊藤 行きます。でも、有名なところより、マイナーなところを探していくのが好き。フランス全土の蚤の市情報が載っているサイト(https://brocabrac.fr)があるので、それを参考にします。 おもしろいですよ。行ってみたらガラクタばっかりだったり、「これ、さっきまで使ってましたよね?」みたいなお鍋を売ってるおばさんがいたり(笑)。その中にプジョーのコーヒーミルが5ユーロで売られていたりして、掘り出し物もある。結局、パリでも、東京でも、日本の地方でも、どこにいてもやっていることは一緒ですね。おいしいものを食べて、かわいいものを探す(笑)。 

どちらのグラスもフィンランドを旅した際に見つけたもの。「緑色のグラスはリキュールを飲むときに使います。いい色ですよね。使わなくても、置いてあるだけでいい」。お酒はいつも料理に合わせてチョイス。ワインを飲むことが多いそう

伊藤 〈棚からグラスを出して〉これは1個1ユーロで、12個まとめて、フィンランドの蚤の市で買ったんです。何でそんなに安かったんだろう? ほこりをかぶっていたんですが、「磨けばきれいになるな」って。

吉川 イニシャルが入ってますね。かわいい。

伊藤 〈同じ棚からグリーンのグラスを出して〉これは吉川さんもお好きなカイ・フランクの。フィンランドのフィスカルスで1年に一度開催される、北欧最大のアンティークマーケットで見つけました。フィスカルスは、ヘルシンキから電車で1時間くらいかな。いつも北欧で買いつけをしているバイヤーの友達と行ったんですが、帰りは荷物がすごく重くて、「来年は車を借りよう」って。それで翌年は車で、私が運転して行きました。行かれたことありますか?

吉川 ないです。一度行きたいと思っているのですが。これ、見たことがないから、きっとめずらしいものですね。

伊藤 あ、そうみたいです。売っていたおじいちゃんも言っていました。その時の旅で、友達の友達が持っている、スウェーデンのダーラナ地方にある別荘に寄らせてもらったのですが、お昼ごはんのとき、テーブルに花柄のお皿が並んでいて。北欧のデザインはシュッとした印象を持っている人も多いと思うのですが、割と牧歌的なものも好みますよね。すごくかわいかったので、その後は花柄のお皿ばかりを探して買いました。

フィンランドのアンティークマーケットで購入した木のトランクには、プロジェクターを収納。伊藤さんの後ろにあるガラスのポットも、フィンランドで見つけた古いもの

吉川 〈木のトランクを見ながら〉これ、質感がすごくいいですね。

伊藤 これもフィスカルスで買ったもので、とっても気に入ってます。中に器をたくさん入れてエアパッキンでぐるぐる巻きにして、ダンボールに入れて、郵便局に持って行きました。そうしたら3日後に、日本にいる娘から「フィンランドから何か届いてるよ」って。中2日で届くってすごいですよね。

吉川 フィンランドは流通がしっかりしているんですよね。国内に行かれることもあるんですか。

伊藤 一昨年は友達に「買い物ツアーして!」とせがまれて、北陸骨董ツアーを企画しました。まずは富山の骨董市、その後、金沢の骨董や巡りをして、飛騨高山まで足を伸ばして。運転はもちろん私。食べるところもすべて私が予約して。

吉川 お店のリサーチもご自身で?

伊藤 だいたい世界にも日本にも、信頼できる舌を持った友達がいるから、その人たちに聞きます。おすすめのお店に行ってみて、おいしかったら通い詰める。特に金沢は四季でお料理が変わるから、いろいろなお店に行くというより、決まったところに行きますね。

後編(2021年1月29日公開予定)に続きます。

伊藤まさこさん スタイリスト。1970年横浜生まれ。近著に「まさこ百景」、「母のレシピノートから」などがある。ほぼ日と一緒につくるネットショップ「weeksdays」を毎日更新中。 https://www.1101.com/n/weeksdays/

PHOTO:
有賀 傑
ILLUSTRATION:
アリヤマコハル
TEXT:
増田綾子(HELLO, FINE DAY!)

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