「STAMP AND DIARY」が提案するホームコレクション「STAMP AND DIARY HOME STORE」は、2021年秋より、さまざまなブランドとコラボレートし、オリジナルアイテムを展開していきます。そのひとつが「Smile Cotton(スマイルコットン)」です。
「Smile Cotton」があるのは、繊維業がさかんな東海地区、三重県。この地で、手間暇を惜しまず、上質なテキスタイルの開発を手掛けています。「STAMP AND DIARY HOME STORE」では、「Smile Cotton」の生地を使い、初めてインナーづくりに挑戦しました。今回は、STAMPSディレクターの吉川が、代表の片山英尚さんにお会いし、「Smile Cotton」の生地とものづくりについてお話を伺います。
半世紀作られ続ける “やわらか”“ふわふわ”の生地
–––実は「STAMP AND DIARY」にとって、「Smile Cotton」とのコラボレーションは、今回が2回目だとか。
吉川修一(以下吉川) 僕が初めて「Smile Cotton」を知ったのは、「STAMP AND DIARY」を立ち上げて間もないころ。阪急梅田店でアパレルブランドを主宰する男性3人のトークショーを行った際、メンバーの1人が「Smile Cotton」の生地で商品を製作していて。それが本当に気持ちのいい素材で、ずっと頭の中に残っていたんです。2016年に念願のコラボレーションが実現して、カットソーを一緒に作りました。
そのカットソーは、お客様やスタッフの反応がとても良かったので、いつかまたコラボしたいと機会を見計らっていました。だから、「STAMP AND DIARY HOME STORE」のコンセプトが固まった時、今だと思ってすぐに、片山さんにお電話しました。
片山英尚さん(以下、片山) 吉川さんが関西の出張帰りに、新幹線の中からわざわざご連絡をくださって(笑)。うれしかったですね。
吉川 そうでしたね(笑)。今回展開する、Tシャツやタンクトップ、レギンスは、インナーとしてはもちろん、ルームウェアとして1枚でも着られるように、シルエットやディテールにこだわってデザインしています。
2021年秋冬は、色をあえて黒と白の2色に絞り込みました。ミニマルな雰囲気と「Smile Cotton」のやわらかな生地とのギャップが際立つようにしたかったからです。使用した「Smile Cotton」の定番生地「スマイルコットン®」は、ずいぶんと長く作られ続けているものですよね。
「smile cotton」とコラボレートして作ったTシャツとタンクトップ、レギンス。襟ぐりにあしらったバインダーは、あえて太めにし、ヘルシーな印象にすることで、インナーはもちろん、アウターとしても着られるデザインに。2021年秋冬は、黒と白を展開するが、2022年春夏は、暖かい季節に向けてペールトーンをラインナップ予定
片山「スマイルコットン®」は、47年前にできた生地です。軽くて柔らかく、洗濯をくり返しても固くならない。汗を吸いやすいうえ、乾きも早いので、敏感肌の方や赤ちゃんの肌着としてご愛用いただくことが多いですね。
–––47年! 半世紀近く、作ってこられたのですね。
片山 そうなんです。一般的なコットン地との違いは、糸そのものの質を変えていること。通常、綿は水分を吸うと固くなり、一度固くなると元の状態に戻りにくい。「スマイルコットン®」は、繊維のちぢれが残るように糸の撚りをほぐすことで、わたのようなやわらかな風合いを生み出しているんです。
「スマイルコットン®」の糸は、繊維同士の間に隙間があるため、力を入れなくとも指先だけでほぐれる。わたに包まれているかのような、ふわふわとした肌触りの秘密だ
吉川 以前も糸を見せていただいて、驚きました。
片山 同じ太さ、重量の糸を比べてみると、通常の糸は膨らみが小さく、引っ張っても撚りがかかっているから簡単に切れない。一方、「スマイルコットン®」の糸は膨らみが大きく、指先でふわりとほぐせます。
今回、「STAMP AND DIARY HOME STORE」で採用していただいた生地は、この糸を使って織り上げていくのですが、実は昔、肌着によく用いられていた生地と同じなんですよ。“片袋”と呼ばれるもので、肌に当たる裏面は綿100%、表面は綿にナイロンとポリウレタンを加えて伸縮性を補強しています。今の時代、この名前を知らない人の方が多いかもしれませんね。
大切なのは、日本人の肌と体に合うこと
片山 一般的には、生産性を高めるために、なるべくシンプルな組織の生地を作ることが求められがちです。「Smile Cotton」はその真逆で、あえて面倒なことをやっています。工程が二倍三倍とかかったとしても、お客さまが身につけて、その良さを実感してもらえるものづくりがしたいからです。
吉川 COVID-19がきっかけで、ユーザーが「なぜこれを買うのか」「なぜこれを着るのか」と考える時代が、思っていたよりも早くやってきました。僕自身も、コンセプトが明確で、しっかりとものづくりをしている人やメーカー、ブランドに、より魅力を感じるようになりました。片山さんもまさにそう。「スマイルコットン®」が47年も作られ続けるということは、それだけで信頼の証です。
片山 僕は3代目なんです。「Smile Cotton」の母体である片山メリヤスを創業した祖父はアイデアマンで、戦後、編機を買い付けて自ら改造し、いろいろな素材を開発していました。当時では画期的な、綿にポリウレタンを交編した、今で言う「ベア天竺」を作りました。最盛期は、900坪の工場に250台もの織機が並んでいました。
父は大学卒業後、1973年に片山メリヤスに入社します。ちょうど沖縄返還に伴い繊維の関税が撤廃され、国際競争力が求められるようになった時代でした。父は、付加価値のあるものを作ろうと、カシミアのような肌触りの生地を開発しました。それが「スマイルコットン®」の原型です。残念ながら、苦労して開発したわりに、当時は全く売れませんでした。
僕があとを継ぐことに決めたきっかけは、父のもとに届いていたお客さまからのお礼の手紙です。世の中で役立っているものを自分の父親が作っていることを改めて知り、僕が継がなければきっとなくなってしまうと思ったからです。「高いからいらない」と言われることも当然あるし、続けることは苦労も多い。でも一度使ってもらえれば、その良さがきっと伝わるはず。そう信じて続けてきました。ニーズが増えてきたのはここ15年ほど、僕の代になってからのこと。COVID-19で2年ほど営業活動ができなかったにもかかわらず、新規の取引先が増えて、とても驚いています。
吉川 今の日本には、世界のありとあらゆる良いものが集まっています。僕は、それに立ち向かえるのが「Smile Cotton」ではないかと思っています。
伊勢丹新宿店のメンズの下着売り場には、「HANRO」「SUNSPEL」など世界の名だたるブランドと共に、「Smile Cotton」のオリジナルブランド「HAAG®」が並んでいますよね。僕はすべてもっていますが、「HAAG®」の着心地はすごく優しい。ヨーロッパの人たちは体が強いからか、固めでちょっと艶のあるような生地が多かったり、アメリカはタフに使えることを重きに置いた生地づくりをしていたりする。そういう意味では「Smile Cotton」のやわらかな生地は、日本人に合うんじゃないでしょうか。
片山 ヨーロッパでは、固めの生地が好まれていて、着ることで自分の体になじませていくのが普通のようです。カシミアも、ヨーロッパのものはしっかりとした風合いのものが多いですしね。弊社の取引先から聞いた話では、パリの展示会で「HANRO」のCEOが「Smile Cotton」の商品を見て、「何だ、この肌触りは! すごい!」とおっしゃっていたらしいんです。ヨーロッパでやわらかい生地といえばレーヨン。でもレーヨンはコットンより比重があるので、コットンで軽くてふわふわの質感を出すということが、なかなかできないんだと思います。
–––「Smile Cotton」は、世界の「HANRO」に認められたんですね!
吉川 日本の下着文化はまだまだ成熟していませんが、「STAMP AND DIARY」が好きな人には、「Smile Cotton」の素晴らしさを理解してもらえるのではないかと思っています。
片山 「Smile Cotton」はこれまで、メンズブランドとのコラボレーションが圧倒的に多かったのですが、「STAMP AND DIARY」のユーザーは、まさに僕が届けたい方々。女性は敏感肌の方も多く、生活スタイルの変化や年齢を重ねることで肌質が変わることもあると聞きます。そうした人の元に届けることができたら、嬉しいですね。
片山英尚さん 1952年、祖父・片山武男が片山メリヤス有限会社を創業し、繊維製造をスタート。父・片山卓夫が1973年に入社し、「スマイルコットン®」の原型を開発。1995年にスマイルコットン株式会社を設立する。自身は2011年にスマイルコットン株式会社に入社し、2013年に社長に就任。「世の中に役立つ、いいモノを作る」の精神を受け継ぎ、今に至る。やわらかく、軽い肌触りにこだわる生地「スマイルコットン®」の開発を手掛けると同時に、オリジナルブランド「HAAG®」を立ち上げ、長く快適に着られる服を提案している。https://www.smile-cotton.com
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矢郷 桃(*以外)
三浦伸一(*)
- TEXT:
- 古山京子(Hi inc.)