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小林和人さんと作った
“東京のタンピコ”

この秋、小林和人さんとTAMPICOがコラボレートしたバックパックが登場します。“東京のタンピコ”をテーマに製作した2つのバックパックは、どんな思いから生まれたのでしょうか。

2023年秋、南フランス・ボルドー生まれのバッグブランド、TAMPICOが、「Roundabout」と「OUTBOUND」を主宰する小林和人さんとのコラボレートを果たしました。「Roundabout」と「OUTBOUND」は、小林さんの審美眼によって選ばれた衣服や生活道具が並ぶ人気のセレクトショップ。そのオーナーである小林さんが手掛けるのは“東京のタンピコ”をテーマとした2種類のバックパック。これまでコットンキャンバスやリネン、レザーなど、厳選した上質な素材を用いてさまざまなバッグを展開してきたTAMPICOですが、バックパックを手掛けるのは今回が初めて。このスペシャルなコラボレーションが生まれた経緯や製作秘話について、TAMPICOのインポーターをつとめるSTAMPSの代表でディレクターの吉川修一と小林さんが語ります。

–––はじめに、今回のコラボレーションのきっかけを教えてください。

吉川修一(以下、吉川) STAMPSが2013年に創業して、初めて大きな展示会に出展したときに、小林さんがブースに立ち寄ってくださったんです。TAMPICOのバッグを見て、「これ、以前うちの店で扱ってました」と声をかけてくださって。

STAMPSがTAMPICOの代理店業務を引き継いだ時点では、レディースの販売先がほとんどで、展開するバッグも女性向けのデザインが中心でした。でもなかには、TAMPICOを愛用してくださる男性もいらっしゃって、いつかメンズのマーケットでTAMPICOを紹介できたらいいなという思いをずっと抱いていたんです。そんなときはいつも小林さんの顔が浮かんでいて(笑)。

小林和人(以下、小林) そうだったんですね。

吉川 その後、ほぼ日の「生活のたのしみ展」でご一緒して、よくお話させていただくようになったり、Roundaboutで購入した一柳京子さんの器を愛用させていただいているうちに、その思いがどんどん強くなっていきました。なので、このコラボレーションをご快諾いただいて本当に感激しました。

トラディショナルな装いに
HOLYWOOD BACK PACK

–––今回、製作したバッグは2種類です。それぞれどんなコンセプトがありますか?

小林 このお話をいただいたとき、「背負えるタンピコ」を一緒に作りたいと、すぐに思いました。僕自身、自転車で移動することが多いのもありますが、そもそも東京にいると、車よりも歩いたり、自転車や電車に乗ったりする機会が多いですよね。そういうときに手がフリーだと活動しやすい。いつもの優雅なTAMPICOはもちろん素敵ですが、それに追従するだけならコラボレーションの意義が弱いかなと思って。自分が純粋にほしいなと思うものを提案させてもらうことにしました。

今回は、2つの軸で考えました。まずひとつめは、男性が持ったときに気恥ずかしくないもの。それがこの「HOLYWOOD BACK PACK」です。トラディショナルな装いをする方におすすめしたいデザインです。

「HOLYWOOD BACK PACK」は本体に上質なキャンバス地を使用。牛革のハンドルとストラップがモダンな雰囲気を添える。「BLACK」(左)と「GALET」(右)の2色展開

吉川 「HOLYWOOD BACK PACK」は、もともと展開していたトートバッグ「HOLYWOOD」をベースにしています。マチがたっぷりついていて、A4サイズのファイルやノートパソコンなども入る大容量。両脇のストラップをはずせば口が大きく開いて、荷物の出し入れが楽。素材はハリのあるコットンキャンバス地で、レザーのハンドルがシックな雰囲気なので、通勤などにお使いいただく方が多いバッグです。

小林 ベースをほぼいじらず、背負うための金具とストラップなどのパーツを取り付けました。単にパーツを付けただけと思われるかもしれませんが、逆にそこを目指したというところもあって。実は、このストラップの長さを決めるのが難しかった。小柄な女性が手に持ったときにストラップを引きずらず、背負ったときに窮屈じゃないというバランスに行き着くまで試行錯誤を繰り返し、4、5回の修正を経てようやく完成しました。

吉川 原型を残しつつ、どこまでできるかという挑戦でもありましたよね。

小林 はい。ストラップの幅や細かな操作にも気を配りました。ストラップを外せば通常のトートとして使えることは前提として考えていました。

吉川 シャツやジャケットなどパリっとした、フォーマルな装いに合う雰囲気のバッグになったのではないかと思います。性別問わずにお使いいただけそうですね。

小林 もちろんです。「HOLYWOOD BACK PACK」は、子育て中のお母さんやお父さんの育児バッグとしてもいいんじゃないかと思っています。子どもを連れて出歩くときって、“両手フリー”って死活問題じゃないですか。量も入るので、おむつや着替えを入れて。外ポケットが大きいのも便利だし、それでいてかっこいい。いろいろな人生のタイミングで活躍してくれるバッグだと思います。

国籍や時代が抽象的な装いに
VIRGILLE BACK PACK

ーーもうひとつの「VIRGILLE BACK PACK」は、「HOLYWOOD BACK PACK」よりもやわらかい印象ですね。

小林 「VIRGILLE BACK PACK」は、うちの店で扱うものでいうとMITTANやCOSMIC WONDERのように国籍や時代が抽象的な装いをする人にも似合うバッグを、という思いから作りました。

吉川 「VIRGILLE BACK PACK」は、「MAX」という前面上部に大きなフラップが付いたバッグをベースに、リサイズしたりパーツを加えたりと、リデザインしています。もとになった「MAX」は、どちらかといえば女性向けのデザインでした。

大きめのフラップが目を引く「VIRGILLE BACK PACK」はストーンウォッシュ加工を施したコットンキャンバス地を使用。パソコンを入れられる内ポケット付き

小林 見た瞬間、これがリュックになったら、ほかに見たことがないようなおもしろいものができると直感が働いて。これをベースに縦横のバランスとか、ストラップの長さを微調整しながら、できあがっていきました。でも、最後の最後に大変だったのが、この内側につけたスナップボタン。パソコンを入れてスナップボタンをとめても、バッグを背負った瞬間に外れてしまうんです。

そこでいろいろと試してみて、もともと直付けだったスナップボタンをレザーのベルトに取り付けて、力を横方向にずらしてはどうかと提案しました。加えて、日本のバッグ職人さんに相談して、背側にパソコンを入れるための内ポケットを付けることに。すると、力がうまく分散されてスナップボタンが外れなくなったんです。見えない部分ですが、僕としてはここがおすすめポイントです(笑)。

吉川 そもそもTAMPICOのバッグは、立ち姿の美しさが追求され、機能は徹底して削ぎ落とされているんです。その潔さが魅力でもあるのですが、今回のコラボレーションに関しては、日本の技術力のすごさも見せていただいた気がしています。

ディテールに宿るTAMPICOらしさ

吉川 僕が驚いたのは、今回使われているパーツの金具。重厚でかっこいいですよね。ほかのバッグで使われているのを見たことがないので、おそらく今回のために別注したもの。正直、値も張ると思います。こうした細部への配慮がTAMPICOらしいなと思うし、フランスのかっこよさみたいなものが現れていて、特別なコラボになったと感じています。僕、この2つのデザインの全カラーをオーダーしたんですよ。フランスでこれを背負って歩きたい!

小林 それはいいですね! 自分は普段、道具を選ぶとき「前からあった姿をしている」ことを大事にしていて。

TAMPICOがブランドとして初めて取り組んだバックパック。今回新たに取り付けられたパーツの素材やディテールにもこだわりが感じられる〈*〉

吉川 そういう意味では、どちらのバッグも以前からTAMPICOにあったような佇まいですよね。実は、TAMPICOがバックパックの製作を理解してくれたこと自体すごいんですよ。これまでも何度か、日本のマーケットはバックパックのシェアが広いから作りたいと相談してたんですけど、なかなか実現できなくて。

小林 そうなんですね。

吉川 ちょうどブランドのディレクターが創業者のニコルから娘のジュリーに変わったタイミングで、ジュリーが「やってみよう」という姿勢を示してくれたのもありますが、何より小林さんの力が大きかった。ゼロから作るのではなく、TAMPICOの思想やデザインを理解したうえで、独自のアイデアをしっかりと落とし込んでくださって。だからTAMPICOも受け入れてくれたんじゃないかと。

小林 いえいえ、ブランドが蓄積してきたものに、自分は少しだけ介在させていただいたという感覚です。僕がInstagramのストーリーに展示会でのお披露目の様子をアップしたら、すぐにジュリーさんがコメントをくれて、嬉しかったですね。

吉川 素直な方なので、本当に嬉しかったんだと思います。そもそも、TAMPICOのあれだけの数のバッグのなかから2つを選びとるのは大変なこと。そこはやはり、小林さんの審美眼のなせる技ですね。

小林和人さん 1975年、東京都生まれ。多摩美術大学を卒業後、1999年に東京・吉祥寺に「Roundabout」、2008年に「OUTBOUND」をオープン。建物のとり壊しに伴い、2016年に「Roundabout」を代々木上原に移転。両店舗のセレクトとディスプレイ、展覧会の企画を手がける。http://roundabout.tohttp://outbound.to、IG@kazutokobayashi

PHOTO:
矢郷 桃
三浦伸一(*)
EDIT&TEXT:
古山京子(Hi inc.)

TAMPICO小林和人さん監修モデル先行販売のご案内→終了しました

9月23日(土)より、東京・代々木上原の「Roundabout」にて、小林和人さんが監修した「TAMPICO」初のバックパック2種の先行販売会が開催されます。販売は11月頃を予定しています。ぜひ足をお運びください。

Roundabout
東京都渋谷区上原3-7-12
http://roundabout.to

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