Travelogue

| STAMP AND DIARY |

ハイマイクロコットン天竺のカットソー
心地良さの秘密(染色編)

良質なコットンを用い、適度な厚みで肌当たりが良く、季節を問わず着られるハイマイクロコットン天竺のカットソー。毎シーズン展開する人気アイテムの秘密を探ります。

STAMP AND DIARYのハイマイクロコットン天竺のカットソーは、通年袖をとおせる心地よい素材とどんな体型の方にもフィットするデザインで、2022年の販売からたくさんのお客さまに手にとっていただきました。STAMP AND DIARYの新たなアイコンとなった人気アイテムです。

生地の編み立てから染色、縫製という工程を経てでき上がるこのカットソーは、さまざまな職人さんたちの手を借りながら作っています。そこで今回のTravelogueは、カットソーづくりにかかわってくださる職人さんたちにフォーカス。職人さんたちの仕事を通して、ハイマイクロコットン天竺を使ったカットソーの気持ちよさの秘密を探っていきます。前半では工程のひとつ、「染色」を手掛ける丸枡染色さんにお話を伺います。

東京・柴又にある丸枡染色は、1901年創業の老舗染色工場。世界のラグジュアリーブランドや美術館のミュージアムショップとのコラボレーションも多数。2017年には自社ブランド「marumasu」を立ち上げ、話題を集めた

世界が信頼を寄せる、
東京・柴又 丸枡染色の技術

STAMP AND DIARYで使用するハイマイクロコットン天竺は、通常なら細番手を紡績するような繊維長の長い原料をあえて太番手にした糸を使用しています。ゆっくりと時間をかけ、空気を含みながら筒状に編み立てることで、軽くふっくらとやわらかな風合いに。なめらかでつや感もあり、ほどよい落ち感が生まれ、独特の着心地の良さを生み出しています。

STAMP AND DIARYではこの生地を用い、シーズンごとにさまざまなカラーバリエーションを展開しています。そのため、編み立て工場で生地が作られたあとは、「染色」の工程へ進みます。この「染色」においても、生地がもつ柔らかさを損なわないさまざまな工夫がなされています。

丸枡染色の4代目、松川和広さん(写真右)と勤続36年の工場長、斎藤高久さん(写真左)

染色をお願いしているのは、東京・柴又にある丸枡染色。丸枡染色は江戸友禅を染める工房として1901年に創業しました。服装が和装から洋装へと移行したことを背景に、プリント生地やニットを中心とした無地染めを行うようになったそう。かつて東京には40数軒の染色工場がありましたが、現在残るのは4軒のみ。そのうち天然繊維の染色を専門とするのは2軒で、その一つが丸枡染色です。120年の歴史に裏付けられた高い染色の知識と技術は、世界の名だたるファッションブランドも厚い信頼を寄せます。

人の目と手で理想の色を追求する「色出し」

染色は、まず「色出し」から始まります。たとえば「ピンク」とひと口にいっても、ペールトーンのピンクやビビッドなピンク、青みがかったピンクなど、さまざまなピンクが存在します。そうした目指す「色」を表現するために重要なのが「色出し」。実際に製品を染める前の試験染色のことで、業界用語で「ビーカー」とも呼ばれています。

写真上/自動調液装置。かつては手でスポイトで染料をとり、ビーカーで調色していたが、自動化によりより正確に色を出せるようになった 写真下/ビーカー試験機。染料と水、塩、小さな布片を入れて温めながら撹拌する

まず、見本色をCCM(コンピュータカラーマッチングシステム)で読み取り、色を分析して数値化します。それに基づいて染料を組み合わせ、本番で使う生地と同素材の小さな布片を試験的に染めていきます。「ビーカー」と呼ばれていることからもわかるように、かつては手作業で染料をビーカーに入れて調合していましたが、現在は自動調液装置やビーカー試験機などの機械が用いられています。しかしながら、生地の原料などによって染料の吸収量が異なるため、一度で理想の色にすることはむずかしいとか。コンピューターによる修正計算も行いますが、人の目で見た場合と微妙に異なることも多々あるそうです。そこで不可欠なのが人の目と経験。染料を足し引きし、ビーカーを繰り返していくのだそうです。職人さんたちの知見が生かされる工程です。

この春、STAMP AND DIARYで展開するカットソーは、ピンクやミント、イエローなどこれまでにない発色のいい明るいカラーに挑戦しました。これらのカラーもこうしたプロセスを経て作られているのです。「特にグリーンは染料が結合しにくく、色を完璧に合わせるのがすごくむずかしい色で苦労しました」(斎藤さん)。

写真上/これまで手掛けてきた染色の貴重な記録。丸枡染色が培ってきた知識と経験の集積だ 写真下/1人が入れるくらいの暗室のような部屋もあり、昼光色や電球色などさまざまな光環境でどんなふうに色が見えるかも試験する

染め上がるまで半日〜一日。
品質を決める下準備と後処理

染料の配合が決定したら、いよいよ染めの工程へ。STAMP AND DIARYのカットソーで使用するハイマイクロコットン天竺は、筒状に編み立てられています。通常こうした形状の生地は切り開いて一枚の布にし、両側から引っ張って染めることが多いのですが、ハイマイクロコットン天竺は、この独特の柔らかさを生かすために筒状のまま染められます。

生地を染色機に入れる前に大事な工程が。それが、筒状の生地を裏返しにすること。つまり生地の表を内側にして毛羽立ちなどから保護します。また、生地が複数反ある場合には、末尾と頭をつないで輪状に。染色機の中で長時間回転させるので、ねじれて染めムラやシワ、キズができるのを防ぐためです。「染色後は再び表に返します。地味ですが、美しい仕上がりにするためには大事な作業なんですよ」(斎藤さん)。

仕上がりのクオリティーを決める、生地を裏返すための特殊な機械

下準備を終えたら、まずは染色機に生地を入れて前処理を行います。前処理とは、生地についている不純物を水を使って取り除くこと。特にコットンの場合は天然素材で、カルシウムやタンパク質などの栄養分や油分なども含んでいるため、水をはじいたり、染料が入りにくいことがあるからです。また、色をきれいに出すため、黒以外の色に染める場合は漂白も行われます。

その後、染色機に染料を入れて生地を染め上げた後、後処理を行っていきます。余分な染料をお湯でしっかりとすすぐことで色落ちを防ぎます。「私たちが特に大事にしているのが、この後処理。どんなにいい染料を使ったとしても、この工程をおろそかにするとそれなりの品質にしか仕上がりません」(斎藤さん)。丸枡染色では、素材や染料によっては、染めた生地を綺麗な水でじっくりとすすぎ、透明な水になるまで水を入れ替え、さらにすすいでいます。そうすることで色落ちがないように心がけています。

工場の1 階には、小・中規模のロットに対応する小型の染色機が並ぶ。この床下には30tの温水を貯蔵する貯水槽が。2階以上には大型の染色機も配されている

「すすぎには熱湯を使うのですが、真水から熱湯まで温度を上げる時間は極力短縮したいんです。お湯に浸かる時間が長いほど生地が傷むので。そこで、使い終わったお湯の排熱を利用して40〜50℃のお湯を作って床下の温水槽に常時貯めておき、それを温めてすすぎに使ってるんですよ。排熱の活用は熱エネルギーの軽減にもつながりますからね。実は、染色では1kgの生地に対して約200Lもの水が必要なんです。少しでも光熱費を抑え、環境負荷を減らしたいという思いで取り組んでいます」(斎藤さん)。

写真左/生地をロープ状にし、染色液を噴射して生地を循環させながら染色する「液流染色機」が用いられている 写真右/染めたあとの後処理を終え、生地をジェット噴射により染色機から取り出す。染色の工程としては、前処理、染め、後処理の3工程で4時間半〜7時間、約半日から1日を要する

フェルトカレンダー仕上げで
ふんわりとした質感を保つ

染め上げた生地を乾燥させた後は、最後の工程となる仕上げ。カレンダー機と呼ばれる機械で、生地にローラーを当ててシワなどを伸ばしていきます。ハイマイクロコットン天竺の場合、ふっくらとした質感を保つため、生地にフェルトの当て布をし、上下から蒸気をかける「フェルトカレンダー仕上げ」を行います。生地を染める際は染色機で半日以上、水中で回して染めます。上下方向に伸び、左右の幅は縮んでしまうため、この工程ではたっぷりと蒸気を当てながら優しく広げて縮みを直していきます。また、ハイマイクロコットン天竺は、ゆがみが少しでもあると製品になったときの変形の原因になるため、しっかりと表・裏の両面をととのえます。

生地を染め上げて乾燥した後、カレンダー機にかけて蒸気をかけながらシワなどを伸ばす

「染色前に生地を中表に返したり、色ごとにすすぎを工夫したり、両面を優しくアイロンがけしたりと、素材に最適な工程を見極めています。些細な作業かもしれませんが、私たちにとっては全部意味があるんですよ。生地の仕上がりを左右する大事な工程の一つだと思っていますから」(斎藤さん)。

斎藤さんをはじめとする丸枡染色の職人さんたちの知識と経験、染色への飽くなき探究心が、STAMP AND DIARYのものづくりを支えているといっても過言ではありません。後編では、次の工程「縫製」にフォーカス。ぜひご覧ください。

PHOTO:
矢郷 桃
EDIT&TEXT:
古山京子(Hi inc.)

Travelogue CHAPTER02_STAMP AND DIARY

ハイマイクロコットン天竺のカットソー
心地良さの秘密(染色編)