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ハイマイクロコットン天竺のカットソー
心地良さの秘密(縫製編)

STAMP AND DIARYのハイマイクロコットン天竺のカットソーは、型崩れしにくくデイリーに着られることで人気。その秘密は縫製の工程にありました。

STAMP AND DIARYの新定番、ハイマイクロコットン天竺のカットソーの作り手を訪ね、その心地良さの秘密に迫る本企画。前回ご紹介した「染色」の工程を経たハイマイクロコットン天竺は、次の工程「縫製」へ。今回はその「縫製」にフォーカスしていきます。生地の編み立て、染色、そして縫製といった工程を経てできあがるカットソー。その完成度を決めるのが、最後の工程「縫製」といえるのではないでしょうか。

紳士服の技術を生かした縫製技術
山梨・南アルプス市の田中洋装

私たちがハイマイクロコットン天竺のカットソーの縫製をおまかせしているのは、ニットや織物の産地として知られている山梨県の西側・南アルプス山麓に位置する南アルプス市の縫製会社、田中洋装さん。今回は、代表取締役の田中智樹さんにお話を伺いました。

実は田中洋装さんが得意とするのが、カットソー。その技術は、世界のラグジュアリーブランドが認めるほど。「父の代ではジャケットやコートの縫製がメインでした。その技術が、私たちのカットソーづくりに生かされているんです」(田中さん)。

山梨・南アルプス市にある田中洋装の2代目、田中智樹さん。「もとは曽祖父が始めた家内制手工業が起りだと聞いています。父が1980年に法人化し、約6年前に私が継ぎました」。生地の裁断から縫製までをワンストップで対応しているのが強みだ。STAMP AND DIARYではハイマイクロコットン天竺のカットソーのほか、定番の刺繍のカットソーの縫製も依頼している

「放反」で生地をより良い状態にととのえる

まず生地を裁断する前に、大事な工程「放反」があります。放反とは、生地を元の状態に戻すこと。生地の多くは紙管に巻かれて納品されるため、引っ張られて伸びています。そのまま縫製すると、製品になったときに歪んだり、寸法が合わなくなるなどのリスクが生じることがあるのです。巻きをほどき、一定時間放置して放反させる方法もありますが、田中洋装ではスポンジングマシンという機械を用い、蒸気を当てて生地をより良い状態にととのえます。実はこのスポンジングマシンが縫製会社にあるのは珍しいことなのだそう。田中洋装が紳士服の縫製を手掛けていたノウハウから、取り入れているといいます。

スポンジングマシンで、生地を裁断する前に蒸気を当てて放反させる。生地に縮絨をかけてから縫製することで、製品になったときの歪みなどを防ぐ

美しい縫製へと導く精緻な裁断

次に生地を裁断していきます。裁断は、製品のパターン(型紙)に合わせ、生地をパーツごとに切り分けていく工程。「実は裁断は、製品の完成度を左右する最も大事な工程。裁断がしっかりできていれば、縫製はほぼうまくいきます」(田中さん)。田中洋装では、効率よく、高い精度の裁断を行える自動裁断機が採用されています。まず、STAMP AND DIARYのデザイナーが制作したパターンをもとに、専用のパソコンで裁断データを作成。

次に、パーツを効率よく切り抜くため、生地を同じ大きさで裁断し、何層かに重ねます。その上からビニールをかぶせて空気を抜き、真空状態にすることで、生地をしっかりと固定。パターンのデータに基づいて生地が正確にカットされていきます。ヘッドには無数の針があり、高速で飛び出すことで生地が裁断される仕組みです。

写真上/STAMP AND DIARYのデザイナーが制作したパターンをもとに、CADでデータ化する 写真下/田中洋装には2台の裁断機が。刃が設置されたヘッドが自在に動き、正確に生地をカットする

基本的にはデータに基づいて自動でカットされますが、コントローラーで操作してカットする場所を決めることも可能です。「刃がついているところにカメラが搭載されていて、ミリ単位で調整することができます。たとえばボーダーなどはなるべく柄合わせしたいですし、襟ぐりの位置はここがいいなどの要望もありますよね。最終的には人間の目と手で合わせていくんです」(田中さん)

この自動裁断機をもつ縫製会社は限られており、ほかの縫製会社さんから裁断だけ依頼を受けることもあるそう。「この尖った部分は合印といって、パーツを縫い合わせるときの目印なのですが、人の手で切るとどうしてもずれてしまう。でも自動裁断機は非常に正確に合印をカットする。作業効率が上がるので縫う人にとってもうれしい点なんです。うちの裁断じゃないと縫製したくないとおっしゃるお客さまもいるほどなんですよ」(田中さん)

写真上/ミリ単位でカット位置を調整したい場合に使用するコントローラー。「これを持っていると子どもに『パパ、遊んでる』って言われちゃうんです(笑)」 写真下/自動裁断機でカットされたパーツ。合印も正確な位置で切り抜かれるため、縫製がしやすいと評判

仕上がりを一変させる糸選びと
いい“顔”を作る中間アイロン

パーツを裁断したら、縫製の工程へ。まずは縫い糸の選定からはじまります。田中洋装では生地に合わせて縫い糸を選んでいるとか。STAMP AND DIARYのハイマイクロコットン天竺のカットソーで用いているのは、細く伸縮性のある糸です。「ハイマイクロコットン天竺は柔らかい素材なので、伸びる糸が適しているんです。それと糸は細いほど扱いがむずかしいんですが、見た目にきれいに、すっきりと仕上がるので、STAMP AND DIARYのデザインに合っていると考えました」(田中さん)。生地はもちろん、どんな人が着る製品になるかまでを考えたうえで、糸選びを行っているのです。

「ユニフォームやメンズのアイテムを縫製する際には、太めで硬い糸も使います。縫製を依頼される際、デザイナーさんから糸の素材を指定されることはありますが、番手(太さ)については私たちから提案させてもらうことが多いですね」(田中さん)。

写真上/ハイマイクロコットン天竺のカットソーで使用する60番手の伸縮性のある糸 写真下/ずらりと揃う縫い糸。近年はさまざまな生地があるため、それに合わせて多種多様な素材や太さ、伸縮性、カラーバリエーションの糸を準備している

そしていよいよ縫製へ。裁断の工程でカットされたパーツを、合印などを目印に、確認しながらミシンでひとつひとつ手作業で縫い合わせていきます。職人さんたちの熟練の技が光る、集中力を要する工程です。ミシンをかける職人さんの隣には、縫い合わせたパーツを丁寧にアイロンがけする職人さんが。

写真上/熟練職人さんが手際よく生地を縫い合わせていく 写真下/パーツを縫い合わせるたびにアイロンがけをすることで、次の縫い合わせの工程がスムーズなうえ、仕上がりも美しくなる

田中洋装の縫製の特徴といえるのが、縫製してアイロン、また縫製してアイロンと、こまめにアイロンがけをする点だといいます。このアイロンがけは、次の縫い合わせの工程をスムーズに行い、美しく仕上げるための縫い代の処理で、中間アイロンと呼ばれます。「ここまで中間アイロンをしないという工場さんもあるようなのですが、うちの場合、もともとジャケットやコートなどの紳士服を手掛けていたこともあり、中間アイロンを大事にしているんです。そんなに難しいことはしていないのですが、このひと手間をしっかりやることで商品はいい顔になっていくんですよ」(田中さん)

縫い上げられたカットソーは、最新の自動検針機で検品。さらに、スタッフが商品をひとつひとつ手に取り、目と手で再び確認して検品します。

最後の工程、検品。スタッフがひとつひとつを丁寧に確認していく

ハイマイクロコットン天竺のカットソーは柔らかな素材ですが、自宅で洗濯しても型崩れがしにくく、一年中デイリーに着ていただけることでご好評をいただいているアイテムでもあります。田中さんにお話を伺って改めて、それは隅々まで行き届いた丁寧な縫製のなせるわざなのだと再認識しました。

「染色編」「縫製編」と2回にわたり、ハイマイクロコットン天竺のカットソーの作り手さんの仕事にフォーカスしたTravelogue。シンプルに見える一枚のカットソーには、こんなにたくさんの物語がありました。職人さんたちの細やかな配慮とこだわりが溢れるハイマイクロコットン天竺のカットソー。これからもたくさんの方に、長くご愛用いただける一着になればうれしいです。

PHOTO:
矢郷 桃(TOPのみ)
EDIT&TEXT:
古山京子(Hi inc.)

Travelogue CHAPTER02_STAMP AND DIARY

ハイマイクロコットン天竺のカットソー
心地良さの秘密(縫製編)