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TAMPICOの美しさの秘密

デザイナーのニコルが追求するのは、バッグの“立ち姿”。
その美しさをかなえるための素材と形とは?

1928年、フランス・ボルドー市郊外にある小さな町、ミュシダンで設立したJ.MARTIN TREPOINTES社より、バッグブランドとして生まれた「TAMPCO(タンピコ)」。「TAMPICO」のTAMは「タンニンなめし」の「タン」、PICOはウェルト製法で作られた靴のソールに使われる革の帯の、ギザギザの形状をフランス語で「ピコ」と呼ぶことに由来します。

「TAMPICO」のルーツ、J.MARTIN TREPOINTES社は、1928年に設立した高級革靴のウェルトやソールなどの資材を手掛ける会社。趣のある建物から、その長い歴史を感じとることができる〈*〉

前回は「TAMPICO」が生まれ、インスピレーションのもととなっているミュシダンの旅へ、皆さまをお連れしました。今回は「TAMPICO」の素材と形に焦点を当て、バッグとしての魅力に迫りたいと思います。

素材が“形”を決める

デザイナーのニコルが追求するのは、バッグの“立ち姿”の美しさ。素材は、自然に置いたときの形がどれだけ美しいかに重きを置いて選んでいます。「TAMPICO」のバッグに用いられる素材は主に4種類。

1.コットンキャンバス

薄手のコットン地を2枚重ねてボンディングしたコットンキャンバスで、ブランドを代表する素材。織りの密な生地を重ねることで見た目が粗野な印象にならない上、強度が上がり、バッグの形をきれいに見せることができます。

2.ストーンウォッシュ加工のコットン

ストーンウォッシュとは、その名のとおり、石や研磨剤などとともに洗濯機で洗い、表面に使い込まれたかのような風合いを出す加工。使い込んでいくことで、より味わいを増していきます。こちらは1と異なり、かのこ織りで一枚仕立て。

3.リネンキャンバス

「TAMPICO」のリネンキャンバスは、やわらかな質感ながら、細かく密に編み込むことで強度のある仕上がりとなっています。品がありながら丈夫で、使い込むほどに風合いが増す素材です。

4.レザー

「TAMPICO」では持ち手など、主に強度が必要とされる部分に牛革を用いています。実は「TAMPICO」は、レザーと深いかかわりがあります。もともと革靴のアッパーとアウトソールに縫いつける帯状の革「ウェルト」を製造する家業を営んでいて、その縫製技術がバッグづくりにいかされているのです。創業当初から、製作過程で残るレザーをもの入れやごみ箱にしたり、切れ端を板状に加工してバッグの中敷きにしたり、あるいは底に貼ったりと、アップサイクルへの取り組みも積極的に行っています。

キャンバスバッグはカジュアルな雰囲気になることも多いですが、「TAMPICO」は生地の選び方や、持ち手やパイピングに革を用いるなどのデザインによって、シックな印象に仕上げられています。

「TAMPICO」のバッグは“メイド・イン・フランス”にこだわり、職人がひとつひとつ手作業で仕上げている〈*〉

バッグを「生活の道具」と考えているため、どれも日常使いに適した耐久性があり、使うほどに味わいを増していく素材を使用。自然な風合いを生かしたものが中心のため、ネップ(繊維のかたまり)やアタリ、工程上でついた小さな傷、革の断面のわずかな毛羽立ちなどが見られることもありますが、これが手づくりである「TAMPICO」ならではの風合いです。

またフランス人は、使い込んでくたっとやわらかくなったり、いつのまにか汚れやしみがついてしまうのも当たり前のことと考えています。人間が年齢を重ねてできるしわやしみと同じですね。日本では、ときに劣化ととらえる場合もありますが、変化するのはごく自然なこと。年月を重ね、使い込むほどに増す美しさや経年変化の楽しさをより多くの方に味わっていただけたらと思っています。

長く愛される定番のTAMPICO

バッグの“立ち姿”の美しさは、もちろん形やデザインによるものでもあります。一見素朴ですが、かっこいい。それは、ニコルが美しいものに囲まれて日々暮らすことを大事にしているのに加え、長らく油絵を描いていたことが影響しているのかもしれません。 「TAMPICO」は年に2回(1回につき20型ほど)、新作を発表するのでさまざまな形があります。今回はその中から人気の5つをご紹介します。

PETIT PANIER

定番中の定番である「PETIT PANIER(プチパニエ)」は底が真四角で収納力があり、大きく開くので中が見やすい形。内側にもパイピングが施されているので開いたときも美しく、細部まで気を配って作られているのが感じられます。

「PETIT PANIER(プチパニエ)S」。コンパクトながらマチが広く、たくさん入るので、サイズ違いで所有する人も多い。元はニコルの家でクッション入れとして使われていたこのバッグは、収納に使うのもおすすめ〈1,2,3〉

ZANZIBAR

こちらも定番の「ZANZIBAR(ザンジバル)」。名前は、インド洋の島が由来です。底が丸く、横に長い、まるでバスケットのような形。丸みを帯びた愛らしいフォルムに、レザーのパイピングが効いています。タンピコにはめずらしく、ジッパーつきなので中身が見えず、外出のときも安心。

DINOSAURES

「DINOSAURES(ダイナソー)」は、縦に長い台形で、書類やファイル、パソコンなどを入れるのにちょうどいい形。パイピングで輪郭が縁どられ、スタイリッシュな印象です。男性ユーザーも多いのが特徴。内側にファスナーつきポケットがあるのも便利です。

CLINT

「CLINT(クリント)」はシンプルで安定感のあるバケツ型。肩にかけても、手で持ってもバランスのいい、やわらかなレザーハンドルがついていて、自然と体に添います。口にはスナップボタンがついていて、中身は隠しながら、ものの出し入れがしやすい仕様。「CLINT」の名前は、長く愛されることを願って、長年活躍している俳優のクリント・イーストウッドからつけたそうです。

GARDEN BAG

「GARDEN BAG(ガーデンバッグ)」はその名の通り、庭仕事のためのバッグ。広い庭を持つニコルたちの暮らしに欠かせない、まさに“生活の道具”です。園芸道具を入れるバッグですが、もちろん、街で使ってもかっこいい。ポケットがないモデルが多い「TAMPICO」ではめずらしく、外側に6個のポケットがついているため、スマートフォンなど、小物の出し入れがスムーズです。

バッグについている黒のレザーハンドルは、形によって異なる。“道具としての美しさ”を表現するため、レザーは主に黒を使用している〈4〉

すべてのバッグの名前に特別な意味が込められているわけではなく、ニコルのひらめきやインスピレーションで決められているようです。それについてニコルはあまり多くを語りませんが、きっと言葉以上の何かが彼女の中にあるのだと考えています。

さまざまな「TAMPICO」のバッグを所有しているSTAMPSディレクターの吉川が愛用中の、リネンの「DINOSAURES」。「ふだんの通勤だけでなく、一泊の国内出張のときも使っています」〈5〉

「TAMPICO」の作り手であるニコルたちが、何を大事にしてバッグを作っているかを少し感じていただけたでしょうか。STAMPSのスタッフにも愛用者の多い「TAMPICO」。みんな毎日のように使い、もはや相棒と呼べる存在です。皆さまの“相棒”をぜひ、見つけていただけたらうれしいです。

PHOTO:
有賀 傑(TOP,1〜5)
三浦伸一(上記、*以外)
TEXT:
増田綾子(HELLO, FINE DAY!)

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