Travelogue

| STAMP AND DIARY |

フィンランドの風を刺繍にのせて

シンプルでミニマルだけど、あたたかみがある。
STAMP AND DIARYの刺繍のシャツのイメージソースは、
自然豊かな北欧にあります。

「STAMP AND DIARY(スタンプアンドダイアリー)」がつくる刺繍のシャツは、肌触りのいいコットンの生地にモダンな刺繍をひかえめにほどこした、洗練されたデザインが特徴です。

パターンのイメージソースは、北欧

nukka、rivi、voikukka……
「STAMP AND DIARY」の刺繍のシャツにつけられている名前には、フィンランド語が数多く用いられています。その理由は、刺繍のシャツが「北欧」をイメージソースとしているから。

「STAMP AND DIARY」で刺繍のシャツを作り始めたのは、2015年。当時、刺繍の洋服といえば、インドなどのエスニックなものやヨーロッパの装飾的でフェミニンなものが多かったように思います。でも、「STAMP AND DIARY」では、「北欧」をイメージソースにしたいと考えました。

森と湖に囲まれた、自然豊かな北欧の国々で生まれたデザインは、シンプルでミニマル。あたたかみが感じられ、国境を超え、時を超えて、多くの人たちを魅了し続けてきました。「STAMP AND DIARY」で目指したのは、そんな刺繍のシャツです。

たとえば、さまざまな大きさとパターンの丸がランダムに散りばめられた「ヌッカ(nukka)」は、フィンランド語で「綿毛」のこと。これは、ディレクターの吉川がフィンランドへ行ったときに見た、空に浮かぶふわふわとした綿毛のような雲から想起しています。地理的に、ヨーロッパは日本に比べて空が近く、雲が低い位置にあり、自然と雲が目に入ってきたのだそう。

また、2021年春に登場した「リヴィ(rivi)」は「列」という意味があります。その名のとおり、まっすぐに整然と糸をあしらったモダンなデザインですが、よく見るとクロスを連ねたようにも、松の繊細な枝葉のようにも感じられます。シンプルなラインや幾何学模様など、装飾をそぎ落してもどこかにあたたかみを残した、北欧デザインに通ずる刺繍です。

写真上:「nukka」はフィンランド語で「綿毛」のこと。フィンランドで見た綿毛のような雲をイメージし、輪や渦巻など、さまざまなかたちの大小の丸をランダムに配した「nukka」〈1〉 写真下:「列」を意味する「rivi」と名付けられた刺繍シリーズは、まっすぐなラインを描いた、ありそうでないモダンなデザイン。写真のシャンブレー生地のほか、ローン生地も展開する

こうして、1からオリジナルで作ったデザインもあれば、「アナベル」「レインドロップ」「マリモ」のように、刺繍をお願いしている北陸の刺繍やさんがもつアーカイブの中から、ブラウスにちょうどいいスケールに拡大、縮小するなど、リデザインしているものもあります。

いずれも、普遍的な魅力を放ち続ける北欧のデザインのように、何年たっても新鮮な気持ちで身につけられる。そんなイメージを思い描きながら、デザインしています。

白×白が与える洗練

以前、「白いシャツがもつ魔法」でお話ししたように、「STAMP AND DIARY」では、ブランド設立から「白いシャツ」という存在を大切にしています。だから刺繍のシャツを作る時にも、白の生地と白の糸を組み合わせるイメージが自然とふくらみました。

〈2〉

白の生地と白の刺繍糸を組み合わせることで、刺繍の存在は抑えられ、ミニマルな雰囲気になります。一見、シンプルな白いシャツだけど、よく見ると柄がふわりと浮き上がってくる。そんな洗練された空気感が、「STAMP AND DIARY」らしいと考えたからです。

実は、生地選びもむずかしいところ。かろやかな着心地と肌当たりのよさに配慮すると、なるべく細い糸で織った生地を使用したいのですが、あまり細すぎると刺繍糸が入りません。そのせめぎあいで、毎シーズン生地選びを行っています。

手前は、小さな花が集まる紫陽花をモチーフとした「アナベル」シリーズ。白の生地に白の糸を組み合わせたデザインは、シンプルで品がありながら、個性を感じる。奥は「rivi」シリーズで、グレーの生地に白の糸で刺繍がほどこされている〈3〉

刺繍生地は全面に用いず、前身ごろや後ろ身ごろなど、部分的に刺繍生地をあしらっているのも特徴。そうすることでかろやかな印象になり、ふだん柄物を選ばない方でも取り入れやすいデザインとなっています。

また、刺繍生地をカットソー生地と組み合わせ、プルオーバーに仕立てたアイテムも展開しています。シャツよりも少しだけカジュアルな印象になるので、よりデイリーにお使いいただけます。

写真左:前身ごろのみに刺繍生地を用いた「nukka刺繍 スタンドカラー ギャザーシャツ」。サイドやバックから見たときにちらりと刺繍が見えるひかえめなデザインがポイント〈4〉 写真右:カラーは、白×白だけでなく、グレー×白、ベージュ×白も展開するが、淡い色合いの生地のため、刺繍が強調されすぎない。手前は「レインドロップ」シリーズ、奥は「キャンディ」シリーズ〈5〉

白×白からはじまった刺繍のシャツは、ライトグレー×白、ベージュ×白など、ほかのカラーへと派生しています。いずれも淡いトーンなので、刺繍の存在はひかえめ。また、アイテムによっては、黒×黒も展開しています。シックでモダンな雰囲気なので、オケージョンシーンにも活躍します。

刺繍から派生した塩縮生地

2021年春に登場し、好評をいただいている「塩縮ドット」。実は、こちらも刺繍のシャツと同じく、「白いシャツ」を色やプリント以外の異なるアプローチから表現していきたい、というコンセプトから生まれたものです。

ドットのパターンが浮き上がり、ぼこぼことした凹凸やしわなど独特の風合いが楽しめるこの生地は、塩縮加工をほどこすことででき上がりました。塩縮加工とは、生地を縮めて凹凸感を出すという特殊なもの。一般的に合成繊維が使われることが多いのですが、「STAMP AND DIARY」ではコットンで製作しています。

2021年春に発売を開始した「塩縮ドット」シリーズ。特殊な加工により凹凸のドットパターンがあしらわれている。透け感があり、涼やかなので春夏にぴったり〈6,7〉

このグラフィカルなドットのパターンもまた、北欧から着想を得たもの。インスピレーションの源泉は、フィンランドへ降り立つ飛行機の窓から見えた、点在する湖です。ドット部分は透け感があり、生地の立体的な風合いと相まって、レースのようなやわらかで繊細な雰囲気をもっています。

コートやジャケットを羽織らずに過ごせるこの季節。ひかえめに個性が光る刺繍のシャツは、きっと今の気分を高めてくれるはず。ぜひ、お手にとっていただければうれしいです。

PHOTO:
有賀 傑(TOP,1〜5)
三浦伸一(6,7)

TEXT:
古山京子(Hi inc.)

Travelogue CHAPTER02_STAMP AND DIARY

フィンランドの風を刺繍にのせて